経営者の退職金・受け取り方の設計

同じ退職金でも、
税金が約406万円
変わることがある。

カギは「社長で1回、会長で1回」に分けて受け取ること。
準備した退職金の「受け取り方」まで設計していますか。

  • なぜ2回に分けると税金が下がるのか
  • 「1年空け」と「5年空け」で何が違うのか
  • 税務調査で否認されないための実態づくり
準備チェックリストへ進む

試算:退職金 合計1億円・勤続25年

かかる所得税は、受け取り方でこう変わる

同じ年に一括で受け取る1,511.7万円
2回に分ける(1年空け)1,255.3万円
2回に分ける(5年空け)1,105.7万円

一括との差 406.0万円 税負担が軽くなる

※所得税の速算表による簡易試算。住民税・復興特別所得税は含みません。実際の控除額や重複の判定は個別の状況により異なります。

社長

社長退職金? 辞めるときに、まとめてドンと1回もらえば済む話だろう

たぬき

たぬきその「ドン」で、税金もドンと増えるんです……

FOR PRESIDENTS

こんな状態の社長に、知ってほしい話です

退職金は、会社の内部留保と小規模企業共済で準備している
いずれ後継者に社長を譲り、しばらくは会長として残るつもりだ
退職金は「いくら貯めるか」ばかり考えて、受け取り方は決めていない
共済も会社の退職金も、辞めるときにまとめてもらえばいいと思っている
退職金は「どう準備するか」だけでなく、「いつ、どう受け取るか」で手取りが変わります。
同じ1億円でも、全部を同じ年に受け取るか、社長退任時と会長退任時に分けるかで、所得税に数百万円の差が出ることがあります。
MECHANISM

なぜ「分ける」と税金が下がるのか

理由は3つの仕組みが重なるからです。むずかしい計算は後回しで大丈夫です。まず考え方だけ押さえてください。

01

退職金は「別枠」で
税金を計算する

退職金は給料など他の所得と合算せず、退職金だけで税額を出します(分離課税)。しかも控除を引いた残りの半分だけに課税される、優遇された所得です。

02

1年にまとまるほど
税率が上がる

所得税は、金額が大きいほど高い税率がかかる仕組み(累進課税)。共済と会社の退職金を同じ年に受け取ると、課税対象が膨らみ、高い税率の段に乗ってしまいます。

03

年を分ければ
別々に計算される

今年と来年のように受け取る年を分ければ、それぞれの年で税額を計算します。合計の受取額が同じでも、1年あたりの課税所得が小さくなり、低い税率で済みます。

押さえておく計算式(参考)

課税される退職所得 = (退職金 − 退職所得控除)× 1/2

勤続20年以下の場合40万円 × 勤続年数
(80万円に満たない場合は80万円)
勤続20年を超える場合800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年)

例:勤続25年なら 800万円 + 70万円 × 5年 = 1,150万円 までが退職所得控除

所得税の速算表を見る(令和8年分)
課税所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円超〜330万円以下10%97,500円
330万円超〜695万円以下20%427,500円
695万円超〜900万円以下23%636,000円
900万円超〜1,800万円以下33%1,536,000円
1,800万円超〜4,000万円以下40%2,796,000円
4,000万円超45%4,796,000円
HOW IT WORKS

社長で1回、会長で1回。
受け取りの流れ

社長を退任して会長になるタイミングで1回目、会長を退任するときに2回目を受け取ります。「社長を退任して会長になる」という区切りがあるから成り立つ方法です。

1回目の受け取り
社長を退任

後継者に社長を譲り、自分は会長へ。ここで社長としての退職金を受け取ります。

原資の例:会社の内部留保

会長として
在任
会長の期間
働き方を変える

報酬を大きく減らし、経営の実務は新社長へ。実態として退いていることが大前提です。

ここが一番の注意点(後述)

理想は
5年以上
2回目の受け取り
会長を退任

会長を退くタイミングで、別の退職金として受け取ります。

原資の例:小規模企業共済の解約

娘

娘お父さん、会社は私に任せて! 会長になったら、ゆっくりしてね

社長

社長……ゆっくり、とは週に何日だ

娘

娘週1〜2日です。

ポイント1年空けるだけでも税負担は軽くなります。ただし5年空けると、非課税の枠(退職所得控除)がもう一度使えるようになり、効果が大きく変わります。

※社長のまま2回受け取ることはできません。社長としての退職金は一度受け取った時点で「社長を退任した」扱いになるためです。

準備チェックリストへ進む印刷して、顧問税理士との打ち合わせにそのまま使えます
SIMULATION

3つの受け取り方で、税額を比べてみる

前提:退職金の合計1億円を、会社の内部留保(8,000万円)と小規模企業共済(2,000万円)で準備。勤続25年(退職所得控除1,150万円)。共済の加入年数も勤続年数と同じとします。
※小規模企業共済の掛金は月7万円が上限のため、25年間で受け取れる額を考えて共済は2,000万円としています。
パターンA同じ年に一括で
1億円
課税される退職所得(1億 − 1,150万)× 1/2 = 4,425万円
所得税4,425万 × 45% − 479.6万
所得税
1,511.65万円
パターンB2回に分ける
(1年空け)
1回目:会社から8,000万円(8,000万 − 1,150万)× 1/2 = 3,425万円
3,425万 × 40% − 279.6万 = 1,090.4万円
2回目(1年後):共済2,000万円控除は重複しない26年目の70万円だけ
(2,000万 − 70万)× 1/2 = 965万円
965万 × 33% − 153.6万 = 164.85万円
2回合計の所得税
1,255.25万円
一括より 256.4万円 軽い
パターンC2回に分ける
(5年空け)
1回目:会社から8,000万円(8,000万 − 1,150万)× 1/2 = 3,425万円
3,425万 × 40% − 279.6万 = 1,090.4万円
2回目(5年後):共済2,000万円控除が復活し30年分=1,500万円
(2,000万 − 1,500万)× 1/2 = 250万円
250万 × 10% − 9.75万 = 15.25万円
2回合計の所得税
1,105.65万円
一括より 406.0万円 軽い

※所得税の速算表をもとにした簡易試算です。住民税・復興特別所得税や、実際の控除額・控除の重複判定は個別の状況により異なります。

たぬき

たぬき受け取り方を変えただけで、一括より406.0万円も軽くなるんです!

社長

社長……5年、待とう。

なぜ「1年空け」と「5年空け」でこんなに違うのか

退職金には通称「5年ルール」があります。前の年以前4年以内に別の退職金を受け取っていると、非課税の枠(退職所得控除)のうち期間が重なる部分は使えません。

1年空けた場合

勤続25年分の控除は1回目で使い切っている扱い。2回目で使えるのは、重ならない26年目の70万円だけです。

使える控除70万円

5年空けた場合

受け取る年が5年離れていれば、非課税の枠が復活。重なる部分も含めて再び使えるため、控除は30年分の1,500万円になります。

使える控除1,500万円
CAUTION

一番大事な注意点。
「形だけの退任」は通らない

「年を分ければ何でもいい」わけではありません。書類の上で「社長を退任した」「会長になった」となっていても、働き方が社長時代と変わっていなければ問題になる可能性があります。

奥さん

奥さんあなた、会長になったのに、どうして毎日会社に行くの?

社長

社長……ちょっと、様子を見にな

奥さん

奥さんそれ、税務署さんにも「社長のまま」に見えますよ

否認されると、どうなるか

社長退任時に支払った数千万円、場合によっては数億円の退職金が、「実際には退職していない」として退職金と認められないリスクがあります。経費として認められず、税負担が一気に増えることになりかねません。

項目こうなっていると危ない会長になったら、こう整える
役員報酬社長時代とほぼ同じ金額半分、あるいは3分の1程度に減らす
対外的な折衝銀行との打ち合わせ・交渉を続けている銀行交渉など対外的な折衝は新社長が担当する
会議・契約重要な会議に出て、重要な契約書に押印している重要な会議・契約関係も新社長が対応する
出社日数これまでどおり毎日出社している週1〜2回程度、ときどき出社する形に変える
部屋・デスク社長時代の専用の部屋やデスクを使い続けている専用の部屋・デスクも見直し、環境を整える

※「こうしていれば絶対に大丈夫」という明確な基準はありません。税務調査ではいろいろと聞かれるため、あらかじめ整えておくことが大切です。

KEY POINTS

あわせて知っておきたい3つのポイント

退職金規定

役員の分は
作っておくのが安心

役員の退職金規定は作っておいたほうがよいでしょう。一方、従業員の規定は必ずしも必要ではありません。規定を作ると、条件に当てはまる従業員全員に支給する義務が生じる場合があるためです。

iDeCoを使っている場合

控除の復活には
もっと長い期間が必要

iDeCoが先 → 退職金が後
10年 空ける必要
退職金が先 → iDeCoが後
19年 空ける必要

19年は現実的には難しいため、「控除は1回しか使えない」くらいの意識で。ただし、重ならない部分の控除は使えます。

事前の計画

会長になるかどうかは
会社の状況次第

あらかじめ退任の形を考えておく会社はあります。ただしこれは絶対的な方法ではなく、選択肢の一つ。この税制上のメリットを知ったうえで「それなら少し会長として残ろう」と判断するケースもあります。

MINDSET

手取りの多さだけで決めない

退職金だけを見れば、1年より5年空けたほうが有利です。けれど最終的には、自分の資産全体と、会社の将来像から考えることが大切です。

資産運用を含めて考える

5年待てば手取りは増えますが、1年後に受け取って早めに資産運用したほうが、5年後の資産総額が大きくなるケースもあります。まず「5年空けると手取りがいくら増えるのか」という金額のインパクトを確かめましょう。

会社をどうしたいのかから考える

会社を売却するなら、必ずしも多額の退職金は必要ありません。一方、次の世代に株式を引き継ぐなら、退職金の支給で株価を下げてから移す方法もあります。役員報酬の設定から逆算して、早い段階から設計しておくことが大切です。

CHECKLIST

退職金を2回に分けて受け取る
準備チェックリスト

このページを印刷して、顧問税理士との打ち合わせに持っていってください。空欄の項目が、これから決めることです。

1. 準備の中身を確かめる

  • 退職金の原資(会社の内部留保・小規模企業共済・iDeCoなど)と、それぞれの金額を把握している
  • 自分の勤続年数と、共済・iDeCoの加入年数を把握している
  • 役員の退職金規定を作っている(または作る予定がある)

2. 受け取り方を決める

  • 社長退任時に受け取るもの・会長退任時に受け取るものを分けて決めた
  • 2回目までの間隔(1年/5年以上)を決め、それぞれの手取り差を試算した
  • iDeCoを使っている場合、受け取る順番と間隔(10年/19年)を確認した
  • 「早く受け取って運用する」場合と比べ、資産全体で有利な方を選んだ

3. 会長としての実態を整える

  • 役員報酬を半分〜3分の1程度に減らす計画がある
  • 銀行交渉など対外的な折衝を、新社長に引き継ぐ
  • 重要な会議・契約書の押印を、新社長が行う体制にする
  • 出社を週1〜2回程度に減らす
  • 社長時代の専用の部屋・デスクを見直す

4. 会社の将来像とつなげる

  • 会社を「売却する/次の世代に継ぐ」のどちらかを考えている
  • 事業承継なら、退職金の金額と株価への影響を税理士と確認した
奥さん

奥さんこれを印刷して、税理士さんのところへ行きましょうね

社長

社長……わしも行くのか

印刷時はボタンなどが自動で消え、資料として読める形になります
FAQ

よくある質問

社長のまま、退職金を2回受け取ることはできますか?

できません。社長としての退職金を一度受け取った時点で、社長を退任したという扱いになるためです。社長を退任して会長になり、その後会長を退任するタイミングで別の退職金として受け取る形であれば、年度を分けることができます。

1年しか空けられなくても、効果はありますか?

あります。年度が変われば、それぞれの年で分離課税の計算をするため、一定の税負担軽減効果が期待できます。上の試算では、一括より約256万円軽くなりました。ただし5年空けると非課税の枠が復活するため、効果はさらに大きくなります。

会長になったあと、会社にはどの程度関わってよいですか?

明確な線引きはありません。役員報酬を大きく減らす、重要な会議に出ない、対外的な交渉や契約は新社長に任せる、出社を週1〜2回程度にする、など実態を伴った形に整えておくことが重要です。

必ず会長になったほうがよいのですか?

いいえ。会長にならずに退任するケースもあります。税制上のメリットがあるという選択肢の一つとして知ったうえで、会社の状況に合わせて決めてください。

自分の場合にいくら得になるのか知りたいのですが。

勤続年数・受け取る金額・時期・ほかの退職金やiDeCoの有無で結果は変わります。上のチェックリストを埋めたうえで、顧問税理士に個別の試算を依頼してください。

ご注意:本ページは一般的な考え方をご紹介するもので、個別の税務判断を行うものではありません。試算は所得税の速算表による簡易計算で、住民税・復興特別所得税は含みません。税制は改正されることがあります。実際の判断・手続きは、必ず顧問税理士などの専門家にご相談ください。