カギは「社長で1回、会長で1回」に分けて受け取ること。
準備した退職金の「受け取り方」まで設計していますか。
試算:退職金 合計1億円・勤続25年
かかる所得税は、受け取り方でこう変わる
一括との差 406.0万円 税負担が軽くなる
※所得税の速算表による簡易試算。住民税・復興特別所得税は含みません。実際の控除額や重複の判定は個別の状況により異なります。

社長退職金? 辞めるときに、まとめてドンと1回もらえば済む話だろう

たぬきその「ドン」で、税金もドンと増えるんです……
理由は3つの仕組みが重なるからです。むずかしい計算は後回しで大丈夫です。まず考え方だけ押さえてください。
退職金は給料など他の所得と合算せず、退職金だけで税額を出します(分離課税)。しかも控除を引いた残りの半分だけに課税される、優遇された所得です。
所得税は、金額が大きいほど高い税率がかかる仕組み(累進課税)。共済と会社の退職金を同じ年に受け取ると、課税対象が膨らみ、高い税率の段に乗ってしまいます。
今年と来年のように受け取る年を分ければ、それぞれの年で税額を計算します。合計の受取額が同じでも、1年あたりの課税所得が小さくなり、低い税率で済みます。
課税される退職所得 = (退職金 − 退職所得控除)× 1/2
例:勤続25年なら 800万円 + 70万円 × 5年 = 1,150万円 までが退職所得控除
| 課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超〜330万円以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万円超〜695万円以下 | 20% | 427,500円 |
| 695万円超〜900万円以下 | 23% | 636,000円 |
| 900万円超〜1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万円超〜4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
社長を退任して会長になるタイミングで1回目、会長を退任するときに2回目を受け取ります。「社長を退任して会長になる」という区切りがあるから成り立つ方法です。
後継者に社長を譲り、自分は会長へ。ここで社長としての退職金を受け取ります。
原資の例:会社の内部留保
報酬を大きく減らし、経営の実務は新社長へ。実態として退いていることが大前提です。
ここが一番の注意点(後述)
会長を退くタイミングで、別の退職金として受け取ります。
原資の例:小規模企業共済の解約

娘お父さん、会社は私に任せて! 会長になったら、ゆっくりしてね

社長……ゆっくり、とは週に何日だ

娘週1〜2日です。
※社長のまま2回受け取ることはできません。社長としての退職金は一度受け取った時点で「社長を退任した」扱いになるためです。
※所得税の速算表をもとにした簡易試算です。住民税・復興特別所得税や、実際の控除額・控除の重複判定は個別の状況により異なります。

たぬき受け取り方を変えただけで、一括より406.0万円も軽くなるんです!

社長……5年、待とう。
退職金には通称「5年ルール」があります。前の年以前4年以内に別の退職金を受け取っていると、非課税の枠(退職所得控除)のうち期間が重なる部分は使えません。
勤続25年分の控除は1回目で使い切っている扱い。2回目で使えるのは、重ならない26年目の70万円だけです。
受け取る年が5年離れていれば、非課税の枠が復活。重なる部分も含めて再び使えるため、控除は30年分の1,500万円になります。
「年を分ければ何でもいい」わけではありません。書類の上で「社長を退任した」「会長になった」となっていても、働き方が社長時代と変わっていなければ問題になる可能性があります。

奥さんあなた、会長になったのに、どうして毎日会社に行くの?

社長……ちょっと、様子を見にな

奥さんそれ、税務署さんにも「社長のまま」に見えますよ
社長退任時に支払った数千万円、場合によっては数億円の退職金が、「実際には退職していない」として退職金と認められないリスクがあります。経費として認められず、税負担が一気に増えることになりかねません。
| 項目 | こうなっていると危ない | 会長になったら、こう整える |
|---|---|---|
| 役員報酬 | 社長時代とほぼ同じ金額 | 半分、あるいは3分の1程度に減らす |
| 対外的な折衝 | 銀行との打ち合わせ・交渉を続けている | 銀行交渉など対外的な折衝は新社長が担当する |
| 会議・契約 | 重要な会議に出て、重要な契約書に押印している | 重要な会議・契約関係も新社長が対応する |
| 出社日数 | これまでどおり毎日出社している | 週1〜2回程度、ときどき出社する形に変える |
| 部屋・デスク | 社長時代の専用の部屋やデスクを使い続けている | 専用の部屋・デスクも見直し、環境を整える |
※「こうしていれば絶対に大丈夫」という明確な基準はありません。税務調査ではいろいろと聞かれるため、あらかじめ整えておくことが大切です。
退職金規定
役員の退職金規定は作っておいたほうがよいでしょう。一方、従業員の規定は必ずしも必要ではありません。規定を作ると、条件に当てはまる従業員全員に支給する義務が生じる場合があるためです。
iDeCoを使っている場合
19年は現実的には難しいため、「控除は1回しか使えない」くらいの意識で。ただし、重ならない部分の控除は使えます。
事前の計画
あらかじめ退任の形を考えておく会社はあります。ただしこれは絶対的な方法ではなく、選択肢の一つ。この税制上のメリットを知ったうえで「それなら少し会長として残ろう」と判断するケースもあります。
退職金だけを見れば、1年より5年空けたほうが有利です。けれど最終的には、自分の資産全体と、会社の将来像から考えることが大切です。
5年待てば手取りは増えますが、1年後に受け取って早めに資産運用したほうが、5年後の資産総額が大きくなるケースもあります。まず「5年空けると手取りがいくら増えるのか」という金額のインパクトを確かめましょう。
会社を売却するなら、必ずしも多額の退職金は必要ありません。一方、次の世代に株式を引き継ぐなら、退職金の支給で株価を下げてから移す方法もあります。役員報酬の設定から逆算して、早い段階から設計しておくことが大切です。
このページを印刷して、顧問税理士との打ち合わせに持っていってください。空欄の項目が、これから決めることです。

奥さんこれを印刷して、税理士さんのところへ行きましょうね

社長……わしも行くのか
できません。社長としての退職金を一度受け取った時点で、社長を退任したという扱いになるためです。社長を退任して会長になり、その後会長を退任するタイミングで別の退職金として受け取る形であれば、年度を分けることができます。
あります。年度が変われば、それぞれの年で分離課税の計算をするため、一定の税負担軽減効果が期待できます。上の試算では、一括より約256万円軽くなりました。ただし5年空けると非課税の枠が復活するため、効果はさらに大きくなります。
明確な線引きはありません。役員報酬を大きく減らす、重要な会議に出ない、対外的な交渉や契約は新社長に任せる、出社を週1〜2回程度にする、など実態を伴った形に整えておくことが重要です。
いいえ。会長にならずに退任するケースもあります。税制上のメリットがあるという選択肢の一つとして知ったうえで、会社の状況に合わせて決めてください。
勤続年数・受け取る金額・時期・ほかの退職金やiDeCoの有無で結果は変わります。上のチェックリストを埋めたうえで、顧問税理士に個別の試算を依頼してください。
ご注意:本ページは一般的な考え方をご紹介するもので、個別の税務判断を行うものではありません。試算は所得税の速算表による簡易計算で、住民税・復興特別所得税は含みません。税制は改正されることがあります。実際の判断・手続きは、必ず顧問税理士などの専門家にご相談ください。